喜久好 <赤坂>

※喜久好の「喜」という字は、七を重ねた草書体(写真参照)ですが、HP上で表現できないので、「喜」を使わせていただきます。

暖簾の真中に白く染め抜かれた「握」の一文字。
これこそが、「喜久好」の、ひいては寿司の魅力の全てを如実に語る、たった一つの言葉。

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「握」は、カウンターに立つ喜久好のご主人、清水さんの後ろにも大きく掲げられ、寿司に興ずる私達を静かに見下ろしている。

寿司は、生の魚を人間の素手でご飯と合わせて、すぐさま客の前に出すという、世にも稀な料理である。しいていえば、その所作のすべてを客の目の前でやらなければならない。つまり寿司屋には、店内はもちろん寿司職人自身に対しても、完璧なまでの清潔さが求められている。

私の知る限り「喜久好」は、この世界でもっとも清潔な店である。ご主人は、無駄のない動きで寿司を握りつつ、私達のカウンター、お皿、そして自分が扱う冷蔵庫の取っ手までも、機会あるごとに拭き清め、寿司屋にとって一番「必要なこと」を、たった一人で当たり前にこなす。

そんな中、まずはつまみとして出てくる白身。白木のカウンターに整然と並べられた、濃いグリーンの大ぶりの皿へと大胆に盛られるが、白身魚の半透明な色合いと深い緑が微妙に溶け合って、いつ見ても美しい。酒は、岐阜の三千盛を樽から升へと注ぎだし、二段重ねにして用意される。微妙な温度と樽の香り、升の口当たり・・・。白身をつまみでいただくときは、まずこれで舌を清めることを忘れてはいけない。
升酒用の塩もあわせて出されるが、私はその塩を時折お刺身にも振りかけて食べる。磯の香りが醤油に消されることのない、とびきりの新鮮さを味わうのである。(5月から9月までは、品質上の問題で樽酒を出さないそうです。すみません)

喜久好は、にぎりの出てくるタイミングがとても早いという人もいる。が、寿司は日本のファーストフードであり、速い仕事ができる人ほど優れているような気がする。私は逆に、にぎりはおまかせでお願いして、ご主人がすばやいタイミングで出してくる主張をストレートに受け、負けじと瞬時に口へと運ぶのが楽しい。スメシの酢の合わせ具合は抜群だが、シャリはもう少し固めの方が個人的には好きで、より江戸前らしいのではないかとも思う。ただ、それこそ「好み」の領域にすぎないのだが。

さて、先日偶然に全日空ホテルでスーツ姿の凛々しいご主人とお目にかかった際、意外に小柄な方だったので驚いた。いつもお店で、「握」を背負った雄々しい姿に接しているからなんだろうなと、改めて板場に立つご主人の偉大さを感じた。

※近海物しか使わない江戸前寿司店での、値段の高い安いの判断は、私自身が満腹になった量で、一人15,000円を超えるかどうかを目安にしています。

■喜久好(寿司)
東京都港区赤坂3-16-2 栄林会館B1  03-3585-2478

2002年05月15日