吉野鮨本店<日本橋>

先日ある読者の方から、「仙台や新潟で食べられる江戸前鮨をご存知ありませんか?」とのご質問をいただいた。回答に際しかなり迷ったあげく、「江戸前鮨というのは東京の地方料理で、仙台や新潟にはその土地にあった握りずしがあるのではないでしょうか」とお答えした。

メールを出してから、乱暴なことを書いてしまったなあと少し後悔したが、ルーツは江戸前としても、関東大震災以降全国にその技術が広まり、それぞれの土地で個性豊かな「握りずし」に変化を遂げていることは確かだと思う。

そして、今回紹介する「吉野鮨本店」は、東京地方の料理「江戸前鮨」の老舗。創業は明治12年という。最初から結論を言ってしまうと、「吉野鮨本店」の一番すばらしい点は、鮨が庶民の食べ物であることを頑なに守って、その姿勢を貫いているところ。

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例えば、この店の屋号には「高島屋さん裏通り」と記されているが、百貨店での買い物帰りにふらっと寄っていただければ、というへりくだった想いの現れに違いない。ご覧のように、大きな看板に大きな暖簾、そして大きな間口。どこが入口か分からないような高級鮨店が林立する中央区でこの潔さ。SUSHI SHOPという英語も(表現が正しいかどうかは別として)、なぜか愛嬌があってかわいらしい。

鮨屋では、やはり「立ち」と呼ばれるカウンター席に座りたい。予約時にいつもその希望を告げるが、「できるだけお取りしますが、テーブルにてお待ちいただくかもしれません」と丁寧な断りがある。
そう、ここは一見居酒屋風の広いテーブル席があり(入ったことがないのだが2階もあるようだ)、凛とした一枚板のまっすぐなカウンターを想像して来ると、すこし拍子抜けかもしれない。ただ、その点が冒頭にもお話した、庶民性を尊ぶ一貫した姿勢の表われだろうと理解する。

もちろん、鮨は真の江戸前が堪能できる。特にしゃりは、甘さを全く排除した酢を使い、米粒一つ一つを際立たせるよう硬めに仕上げている。にぎりとしての大きさも十分だ。そして、なんといってもすばらしいのは、巧みで無駄のない握り手の所作だろう。板場にはたくさんの握り手がいて、彼らはそれぞれ、カウンター、テーブル席の全てを恐ろしい速さでさばく。それに合わせて鮨をつまみだすと、いくら食べても「満腹」という言葉が思い出せないぐらい、こちら側も手が動くのだった。

つまみを十分いただいた後、握っていただくようお願いし、私の友人は「コハダ!」と声をかけた。その時「最初にコハダかい!兄さん粋だねえ」といった表情を見せた板さんが忘れられない。板場に立つ多くの握り手が、カウンター客と言葉を交わしながら握っていく様は、銀座の名店「久兵衛」をも想起させるが、そこは江戸前の一つの共通項かなあと、ひとり勝手に想ってみたり。

さて、支払いの段になり、同席した私の友人に幾らだと思う?と聞いた。アレだけたらふく食ったし、相当日本酒も飲んだからねえ・・・。三人で5万2千円ぐらい。と彼は答える。会計は、しめて3万6千円だった。

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◆吉野鮨本店<日本橋>◆
中央区日本橋3-8-11 政吉ビル1F 
03-3274-3001
 日祝休

2002年12月06日