北島亭<四ツ谷>
- カテゴリー:2.極上の料理店 |
- カテゴリー:<ジャンル別2>フランス料理 |
- カテゴリー:<地域別7>赤坂・四谷
◆改めてフランス料理に込める想い
グルメガイドを多種発刊しているある出版社から、昨年夏ごろ一通のメールが届いた。2005年早々に新しいグルメガイドを出版するので、そのフランス料理のパートを書いていただけないかという依頼だった。私に声をかけていただいたのも大感激だけど、私にフランス料理にのパートをお願いしたいと言ってくださったことがさらにうれしかった。私はなんでもかんでも雑多に食べているようだが、自分の中でフランス料理は、鮨とともに常に最優先して食べてきたカテゴリ。それを感じていただけたことが、なによりも心を動かされたのである。
しかも、その編集者の方に「なぜ私がフランス料理を担当するのですか」と尋ねると、「今、フランス料理をちゃんと書ける方が本当にいません。その中で、伊藤さんならやっていただけるかなあと思いました」と言っていただいた。残念ながら諸般の事情でこの本の出版はなくなったが、そのとき改めて、微力ながらも大好きなフランス料理をきちんと体系づけて、定期的にじっくり書いていくべきだと考えたのである。
フランス料理店指南として、見田盛夫・山本益博両氏が著わした「グルマン」というガイドがあったことは皆さんよくごぞんじだろう。日本のフランス料理発展のために、気鋭の評論家お二人がフランス本国ガイドのレベルに匹敵するような評論活動を展開。現在の両氏はどうあれ、このグルマンを著したころのお二人が日本全国のフランス料理店とフランス料理ファンに与えた影響は計り知れず、創刊2号から持っている全冊は、今でも時折読み返す私のバイブルである。
ただ、そんなガイドを失った今の日本のフランス料理業界は、作る側も評論する側も実に混沌としてまとまらず、食べ手の無責任なうわさと経営者側の思惑とが不毛に行きかっているように思える。
◆自分なりのフレンチ指南
そこで、自分は評論活動をここでするつもりはないけれど、これからフランス料理を楽しんでみようと思われる若い方や、たまにはフレンチもいいねと、昔を思い出してディナーに出かける同輩の皆様の一助となるよう、すばらしいフランス料理店を一軒ずつゆっくり紹介していきたいと考えている。
タイトルを「フレンチ新古典主義の系譜」としてみた。世界的に見た今のフランス料理は、スペインの「エルブジ」が強く影響して、よりグローバルでボーダレス、すっかり垣根が取り払われたものになっている。特に本家フランスの大都市にその傾向が強いと聞く。ただ、そんなグローバルな展開は、確固たる固有の食文化を持つ日本人にとってみれば、逆にいいとこ取りの亜流としか感じられず、それを発展形とかクリエイティブとは解釈できないように思う。
また、料理がボーダレス化すれば目先の新鮮さはあるが、フレンチ特有の時間と手間をかけた手法が消え行く不安もある。例えばフランス料理に日本の調味料を使うことを例にとっても、確かに調理も短時間で済むし瞬間的に味を決めることができる反面、フレンチ本来の持つソースの旨みや味わい、そしてワインとの伝統的なマリアージュなどを結局は失ってしまうのではないだろうか。
一方、差別や貧困に苦しみながらも本来のフランス料理を現地でしっかり見につけてきた日本人の料理人は、逆にそれを由とせず、頑なに古典的なフレンチの中から自分のオリジナリティを創出しようと努力されているように感じるし、頭が下がる思いがする。つまり、そんな「新古典主義」とも呼べる料理を求道するフレンチ料理人へのオマージュを込めて、紹介していきたい。
◆新古典主義の代表格
一回目は「北島亭」。当たり前すぎてひねりが足りないとお叱りを受けるかもしれないけど、おそらくどなたも依存はないだろう。場所は四ツ谷から新宿に抜ける大通りを一本内側に入った三栄通り沿い。外見はご覧の通りパッとしないが、ひとたび入れば、日本でも、そして今や本国フランスでも味わえないような本格的フランス料理に出会えるのである。
先ごろ銀座に「ベージュ東京」をシャネルの日本法人とのコラボでオープンしたアランデュカスも、東京に来ると「北島亭」に立ち寄るそうだ。その話を北島シェフとしていたら「デュカスがうちに来てくれるので、自分がパリに行った時もデュカスの店に行くだろ。そしたら、ものすごく高くてえらい困るんだよ」と、笑っておられた。
◆一ヶ月前からお願いした特別ディナー
トリュフとフォアグラのパイ包み焼き
今回私たちが「北島亭」でいただいた料理は、私がこの記事で紹介するにはふさわしくない料理かもしれない。ただ、特別な立場を利用したと言うわけではなく、何方でもお願いすれば食材を仕入れ作っていただけるメニューであり、北島シェフの実力や「北島亭」の魅力をお伝えする上でも、ぜひ取り上げてみようと考えた。
こちらは、世界三大珍味のうちトリュフとフォアグラの両方が入り、しかもその双方の旨みがパイに包んで焼くことによってギュュュュュュッと凝縮され、ざっくりナイフを入れた瞬間に浮かび上がる至福の香りが鼻腔を天国にいざなう料理である。なんとこの料理は一皿18,900円する。が、2004年末のトリュフの仕入れ価格は1キロ18万円とも聞く。そして北島シェフは、パイの中にトリュフを55グラム入れたと言っておられた。写真の真ん中にも見えるように、マロングラッセ大の真っ黒なかたまりがゴロンと入っていて、それを食すには、自分でトリュフにナイフを入れなければならないのだった。

山シギ〈ベキャス〉のロースト 内臓のソース
前述のトリュフのパイは「北島亭」のスペシャリテ。いつも必ずあるとは限らないが,今のトリュフシーズンにはメニューに載っている料理である。実はトリュフパイをいただく前にも、同じく「北島亭」のスペシャリテ「生ウニとコンソメゼリー カリフラワークリームソース」を食べたのだが・・・。
そして、本日のメインデッシュはこちら。そう、ジビエの王様といわれるベキャスこと山シギ。羽毛が枯れ草に似ているため見つけにくく、あまりにも珍重ゆえ乱獲され、フランスではついに禁猟となったとか。本日の食材はイギリス産とのこと。シェフ曰く、随分前からベキャスにラブコールをくださったので、すごくいい状態のものを仕入れることができたといっておられた。
その言葉どおり、私は過去に「コート・ドール」や「ラナプール〈現レ・クレアシオン・ド・ナリサワ〉」などで食べたことがあるが、ここまで身の太った、充実した味わいのものには初めて出会った。
ご覧のように、ベキャスは鳥一羽を開いたような状態で、体の上から下まで全てが調理され、すべてをいただくことができる。長いくちばしが付いた頭は脳みそを、そして首、手羽、もも。内臓はソースに使われるのと同時に、ペーストにして焼いたものも添えられる。味わいは、青首鴨、山うずら、山バト、雷鳥など、ジビエの野鳥類が放つ特徴を全てバランスよく持ちつつ、長いくちばしで魚類も啄ばむゆえ、魚の干物のような独特の香りも立ち上る。圧倒的な滋味に溢れ、ほんのり甘くせつないはかなさもあるのは、思い入れが強いせいかな。

当日のワイン
かくのごと料理に負けじと、過日はワインを持ち込ませていただいた。「北島亭」でもきちんとワインを揃えておられるが、持込みについても相談すれば快く応じていただけるものと思う。
そしてこのような豪放磊落な料理を次々と作られるシェフながら、デザートにも瞠目すべきスペシャリテが待っている。ぜひおなかに入るスペースを残しておいて、デザートまで堪能されることを願う。
■北島亭<四ツ谷>
新宿区三栄町7 JHCビル1F 03-3355-6667
日、第1・3月休 ランチあり
予算:文中のものはあまり参考になりませんが、普通のディナーの場合 15,000円~/一人
地図:Yahoo!地図情報




