石かわ<神楽坂>
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◆ランチタイムのゆくえ
最近各所で言われていることだし、食べ歩きファンには改めていうまでもないが、和・洋問わずランチをやらない店が増えてきたようだ。
ランチでその店の雰囲気を偵察してからディナーに乗り込むかどうか決める、とか、若い女性や主婦層は、高級店の味を気軽に安価で楽しめ難しいお酒の注文もしなくてよい、となれば、ランチの人気が高まるのも理解できる。一方、料理店側は、従業員の拘束時間が長く、忙しい割には一瞬の時間帯だけなので儲からず、しかも、つまらないと判断されればディナーへの集客に繋がらないと、諸刃の剣であろう。ランチタイムサービスという言葉もあるぐらい、ディナーで勝負する飲食店にとってランチはサービス感覚なのかもしれない。
また、一般から投票して料理店のランク付けをするサイトも最近多数出てきたが、その多くはランチとディナーの評価がごちゃ混ぜになっていて、そのランキングの信頼性をさらに下げているようにも感じる。
大人の食べ歩きでは、ランチでの体験を記事にしたことは一度もない。ランチ時は、その店の料理長や女主人が不在の場合も多く、というより、読んでいただいている読者の焦点はディナーにあると思うので、自分も同じ時間帯を過ごしてレポートすべきだと考えるからだ。ただ、1日3回しかない食事の時間を有効に有意義に過ごすためにも、私にとってランチの時間は貴重。個人的には、できるだけ夜に近いメニューとサービススタッフでランチ営業をされる店が一番うれしかったりする。
だが、冒頭に書いたように、ディナーのみに絞り深夜を過ぎても入店が可能、つまりディナー以降の時間帯に集中して営業する料理店は、上記の理由で確かに増えてきた。そしてそのメニューの傾向も、夜遅くまで仕事をして深夜に食事をとるタイプ、言い換えれば、タクシーで帰れるぐらいの近隣に住み、朝は多少遅くても許される職種に向けられているようである。
◆深夜も営業する日本料理店
上記のように深夜まで営業するレストランは、やはりイタリアンのような西洋料理が多いが、最近は日本料理店でもそんな展開をする店が出始めた。青柳系の出身、六本木の「龍吟」は、以前ランチタイムもやっていたが今では夜のみ、しかも午前2時までの営業に変更をしている。また、今回ご紹介をする「石かわ」も、ラストオーダーが24時と、神楽坂という立地、特によっぴて仕事をする近隣の出版業界の救世主となっている。
「石かわ」の場所は神楽坂だが、駅としては飯田橋の方が最寄かもしれない。飯田橋から神楽坂方面に坂を上がり、しばらく行って左に折れる。いかにも神楽坂らしい路地の中にポッと浮かび上がる暖簾をすぐに見つけることができるだろう。オープンして一年半余りと聞くが、すでにすっかり神楽坂に溶け込んでいる。回りとの調和を一番に考えて店の外観を設計された、そんな工夫と強い意志が伝わってくる粋な佇まいだ。
外から想像した感じと店内とは少し印象が異なった。もう少し広くて大掛かりな店かなと思いきや、店内はカチッとコンパクトにまとまっている。また、基本は店主石川さんの料理を食べさせる店だと思うのだが、そのわりにカウンターは4席しかない。スペースの構造上広いカウンターを作れなかったか、もしくは深夜族にゆっくり食事をしてもらうためのテーブル席と個室スペースを重視したか。いずれにしてもカウンターファンの私としては、かなり競争率が高そうな気配。
◆店主のキャラクターと呼応する料理
訪問の前にインターネットで検索して多少の予習をしてみた。とあるサイトに「ここで日本一(料理人として)を目指しているから、毎日が真剣勝負なんです」という店主の言葉が掲載されており、「どうだオレの料理は!」みたいな感じの花板花板した人を想像していた。ところが、カウンターの中の石川さんは長身で細身。眼光鋭い反面、腰が低くてやわらかい方。もし役者をしていたら、大会社の社長からやくざの役までこなせそうな、そんな雰囲気である。
コースをお願いした。日本料理のコースとしてはかなりヌーボーな立ち位置。まずお椀がない。これは個人的には残念だが、料理の流れとしてはあまり必要性を感じなかったし、充分に意識されてのことだろう。また、温かい料理(かなり熱い)と冷たい料理が交互に出てくるので、そのたびに五感神経がクリアになるような気がして楽しい。ただ、価格的なこともあって偉そうに言えないけど、コースにもうひと盛り上がり欲しいかなと感じた。その物足りなさが再訪意欲へ繋がるといえば、悔しいほどにそうなのだが。
また、器がかなり個性的で器の扱い方も特徴がある。大きな皿に氷を一杯敷き詰めて、とても小さな皿に一水の余地もなくお造りを盛り込み真ん中にポンと置く。見た目はとても美しい。ただ本来は、オイリーな魚、淡白な白身、貝などを重ねて盛るのは感心しないけど、食材がすべて新鮮で干渉し合うことがなく、「石かわ」では逆にその一体感に一皿の料理としての醍醐味があった。
9時以降はアラカルトでも対応とのことで、酒の品揃えもなかなかのもの。オッ!という銘酒数本の一合売り、500ミリリットル瓶(新潟の「鄙願」)、四合(720ミリリットル)瓶と、飲み手の許容量や懐具合に合わせた心憎いラインナップ。黒龍の「石田屋」なんかも、21000円でサラッとメニューに載っていた。
◆やはりすばらしい神楽坂
さて、最近銀座の高名な日本料理店などでは、スーツ姿の若い男性も見るようになったが、ここ「石かわ」では、男性は全てノーネクタイ(じろじろ見たわけではないので全てとはいえないかな)、年齢も自分が一番の若輩かと思えるほど高かった。神楽坂という街がそうなのか、いや、そうさせるのかもしれないけど、客層が安定していて、料理店で過ごす空間が創り出す一体感がとてもすばらしかった。
もちろんご主人やスタッフの方の人柄、そしてそういった客層のストライクゾーンにはまる料理や酒もあるかと思うが、オープンして1年半にして「石かわ」の客が醸成する雰囲気は、情報が早く好奇心が旺盛、そして自分なりの時間の過ごし方を知っている大人の店として、早くも十数年の歳月を経てきたような輝きに満ちていた。
■石かわ(日本料理)
東京都新宿区神楽坂3-4 03-5225-0173
予算:15,000円~




