タワシタ<赤羽橋>

◆看板のない店

たぶん以前の媒体では書けなかっただろう、そんなレストランも取り上げてみたいし、それができるのも個人のサイトゆえではないだろうか。2006年3月にオープンした「タワシタ」はそんな店の最右翼かもしれない。

普段ほとんどテレビを見ないので、その店ができがった経緯は知らないしあまり興味もない。ただ東京タワーの袂にあるレストランということで「タワシタ」と命名され、看板等がまったくない雑居ビルの2階にあるとの前情報を入手。そして、食にもご堪能な高名放送作家と「kihachi」で同僚だったサービスの佐藤氏と料理人の十文字氏がオーブンに関わっている店とのこと。サービスの佐藤拓也氏は以前「AZABUハウス」でもお見かけした背の高いイケメン。長身をくの字に折りつつの丁寧なサービス印象的だったが、どうも「AZABUハウス」の不思議なコスチュームは特に佐藤氏には違和感があり、なんだかなーと思っていたところだった。

繰り返すが「タワシタ」はよくいう看板のない店である。ただ、東京タワーへの眺望をひとつのウリにもしているので、そちらに向けた大きな窓が特徴。外から見ると看板はなくてもサービススタッフがきびきび動くさまが見え、そこがとても賑わうレストランであることはすぐにわかる(なので、看板のない店効果を狙って訪れたい方は、東京タワー側からではなく、桜田通り側から東京タワーに向かって坂を登ることをおすすめしたい)。


◆拒絶されたあとの庶民性

tawa1.jpgビルのエレベーターから2階に上がると、すぐに店のエントランス。ただ、ぼく自身、もっともっと隠れ家的な空間をイメージしたけど、意外と普通というか逆に少し雑然とした趣。予約の時間を告げてその時間通りに着いているのに、スタッフの出迎えもない。しばらくほっとかれてやっと気づいてもらい席へ。

ダイニングもこれまたオーソドックスな感じでどちらかというと安普請な設計も目立つ。本来事務所もしくは住居空間だったスペースをなんとかレストランに改装しました、との無理矢理感も垣間見る。「けっこうええやん」と、ぼくなんかは逆にニヤッとしてしまう。

店はまだ5分の入りだったけど、すでに相当騒々しい。そして煙い。一歩入ってしまえば、看板のない隠れ家でもなんでもなく、単なる業界人の巣窟のようだ。大声で小山薫堂氏に「今日はこないのー」と直電をしている芸能人もいる。「やれやれ・・・」。すくなくとも席についた段階では、美味しいものをゆっくりといただく環境では決してなかった。

メニューが渡される。
全品とても美しい手書きのカラーイラストで彩られ、盛り込まれた食材の解説までついた絵本のような一冊。持って帰りたい。ただ、あたりを見渡すとほとんどすべてのテーブルがコースの様子。と、メニューに記載はないようだがコースもあるのかなあと思って逡巡していたら、こちらにお任せいただいてもかまいません、とのこと。

でもなぁ、こんなに美しいメニューを渡されてコース料理もないよな、と、長時間眺めつつ数種の皿を選択(実はどの料理もとてもたまらなく旨そうなのだ)。面白かったのはイラストを見て想像した料理とテーブルに運ばれた実物が、いずれの皿も同じではなかったこと。これは悪い意味ではなく、バーチャルとリアルの二度楽しめるといういい意味で。

続いてワインリスト。
これはすばらしい。ほとんどすべて6,000円~8,000円に集中させ、料理との相性がいいフレッシュなワインをセレクトしてある。それ以下の安価への逃げはないけど、この辺の価格帯で納得できるものが充分にあり選びやすい。

ワインとグラスが運ばれる。グラスはSPIGELAUの業務用廉価版。少し分厚いし重い。でも充分に満足。これでいいのだ。
そして料理。イラストを見て旨そう、運ばれてきて、そのボリュームと盛り付け、そして立ち上る香りに感激、そしてなにより「う・ま・い」。フレンチとかイタリアンとか、そういった類の料理ではなく、いわゆる無国籍な、食材の特徴を生かした食べやすくて味の輪郭が際立つクリアな料理。ちょっと「マルディ・グラ」を思い出したけど、あそこより以上に、お箸で食べられるやさしいテイストと解釈いただきたい。


◆そして、最高のサービス陣

かの長身スタイリッシュで柳腰サービスマンの佐藤氏が、髪の毛を振り乱し、額に汗してばたばたと走り回っている。なんだかとても微笑ましい。お水を頼んだ後もしばらく他のテープルにかかりっきりなので、てっきり忘れられたかなあと思いきやさっと運ばれる。そんなところは流石。

大半の客がコースなのにアラカルトでお願いした結果、料理の出が遅いかなあと心配したが、まったく遜色なく配されて(取り皿やパンの差し替えもいつも過不足なく)心地よさが最後まで持続した。加えて、アラカルトを頼んだことでシメのご飯に裏メニューをすすめてもらえるチャンスにもめぐり合う。日本の国民食ともいえるその裏メニューは驚異的に美味しく(生涯のベストワンかもしれない)そして安価。皿までなめたいぐらいだった。


◆食を愛する大人のための「タワシタ」

tawa2.jpgさて、過日の「タワシタ」も、あとからあとから客が訪れ空いたところも2回転目に突入。すごい盛況ぶりだけど、心底、飲んだり食べたりすることを楽しみに訪れる客は意外と少ないように感じた。それでは実にもったいない。

この料理、そしてワイン、サービス。
「タワシタ」は、美味しいものを楽しく食べながら最高に素敵な時間を過ごしたい客で埋めてもらいたいと真摯に願うレストラン。余計なお世話と言われそうだけど、ハヤリを求める方には「AZABUハウス」を選んでもらって、ぜひ「タワシタ」には、純粋に飲み食いを楽しみたい普通の大人に席を埋めてもらいたいと切望してやまない。

■タワシタ(赤羽橋)
東京都港区東麻布1-9-3

2006年05月07日